小さなゴルフボール1個に、28もの欠陥検査項目があることをご存じでしょうか。人手では1時間に500個のボールを検査しますが、AIで欠陥を検査すれば1時間に6,000個を検査できます。慧穩科技が研究開発したAOI自動光学検査技術は0.1%の見逃し率を実現でき、人の目の10倍もの精度に達します。ゴルフボール産業のほか、慧穩科技のAOI検査は繊維業などの産業にも導入されていく予定です。
慧穩科技の創業者兼CEOである林耿呈氏は、人工知能(AI)を研究する専門家で、早くも2013年頃にはディープラーニング(Deep Learning, DL)とAI画像認識の将来性と爆発力を感じ取っていました。一方、AOIは長年にわたり製造業で強く求められてきたもので、主に事業者の製品品質を高め、納品・出荷の品質を安定させることができます。加えて、AOI検査の結果データを製造プロセスの改善に活用することで、プロセス改善を好循環に乗せ、さらなるコスト削減につなげることができます。
人の目には疲労や基準のばらつきといった制御できない要因があるため、検査はボトルネックに直面します。訓練を受けた人の目でも見逃し率の限界はおよそ1~2%で、しかも時間とともに状況は悪化し、検査の質は下がっていきます。AOIは安定して大量に検査できる設備であり、慧穩科技は0.1%の見逃し率を実現できます。これは人の目の10倍にあたり、検出率99.9%に相当します。もちろん、AOIでも5%~10%の過検出率が生じますが、過検出分については人手で選別すれば済みます。AOIの支援があれば品質検査の負担を軽減でき、その分かなりの工数を削減できます。
AOIでゴルフボールの欠陥を検査 1時間あたりの検査能力は12倍に
慧穩科技のAOI技術にとって最初の試金石となったのがゴルフボールです。ゴルフボールは表面に凹凸があり、反射の強い製品で、従来は人手で一つひとつ欠陥を検査していました。小さなゴルフボール1個に28種類もの欠陥があり、1時間に検査できるのは500個です。台湾のゴルフボール大手メーカーは日本の顧客の要求に応えるため、2年前にAOI検査を導入しました。AOI高速・高精度光学画像検査システムとAIディープラーニング画像認識技術を組み合わせてゴルフボールの表面欠陥検査を行い、供給・排出を全面的に自動化することで、人による識別の見逃し問題を解消するとともに、欠陥の状況をリアルタイムに記録・報告できるようになりました。1台あたり年間20万ダースのゴルフボールを検査でき、顧客満足度を大きく高めています。しかし、この一歩にたどり着くまでに、慧穩科技は実に2年余りを費やしました……。
▲ゴルフボールAOI認識技術の画面
▲ゴルフボールのAOI認識。28種類の表面欠陥を逃さず捉える
林耿呈氏によると、データの評価とコンサルティングから始まり、続いてデータの整理とラベリング、AIアルゴリズムの選定・検証、AI学習サービスへと進みましたが、ゴルフボールのデータはゼロから1件ずつ積み上げていったようなものでした。幸い、ゴルフボールメーカーの全面的な協力があり、ようやく実を結びました。ゴルフボールの欠陥をAOIで検査する場合、一般に人手では1時間に500個ですが、AIで検査すれば1時間に6,000個を検査でき、効果は12倍にも達します。
他社とは異なり、林耿呈氏は、AIにはドメイン(Domain)を深く掘り下げて専門的なデータを磨き上げることが必要であり、こうしたドメインのデータがあってこそAIは優れた成果を出せると考えています。そのため同社は、最初からAI製品を設定するのではなく、プロジェクトの受託から歩み始めました。良質なデータや特化した領域がなければ、どれほど優れたアルゴリズムがあってもAIは成り立たないからです。慧穩科技はここ数年でプロジェクトの経験を積み重ね、徐々に製品へと発展させてきました。ドメインデータへの注力に加え、慧穩は最新のAIアルゴリズムも顧客に提供し、顧客とともに成長しています。そのため、外部からの資金調達とは異なり、慧穩の投資家は顧客やパートナーそのものであり、より緊密な協力関係を形成しています。
評価期から本番稼働まで AI導入には六つの段階が必要
慧穩科技が請け負うプロジェクトは、いずれもいくつかの段階に分かれます。1.評価期、2.事前検証(POC)期、3.データ収集期、4.反復検証期、5.AI好循環期、6.本番稼働です。評価期では需要側のドメインの状況を事前に把握・評価し、次にPOCによる検証を行います。POCを経た後は大量にデータを収集して反復検証の段階に入り、最後にAIを好循環の段階へと進め、一定の効果に達した時点で本番稼働となります。一般的に、1件の案件には半年から1年の時間をかけて磨き上げる必要があります。ただし、比較的なじみのあるPCBのAOIプロジェクトでは、最初の二つの段階を飛ばしてデータ収集から始めるため、期間も相対的に大きく短縮されます。
「この案件でも他の案件でも共通して直面する問題として、お客様は必ず、データはどれくらいあれば足りるのか、AIはいつになったら学習できるのか、と尋ねられます」。こうした問いに対し、林耿呈氏は、これらの疑問が生じる原因として、1. ディープラーニングはブラックボックスであるため技術的に説明ができないこと、2. AI技術について顧客の多くが相応の概念を持っていないこと、を挙げています。そのため同社は、根気強くデータを反復検証し、AIが必要とするデータを見つけ出して蓄積とテストを行い、あらゆるドメインの状況を一つひとつ明らかにして解決していかなければなりません。これには非常に多くの時間と忍耐が必要です。
AI導入の過程では、顧客はAIに高い期待を寄せ、AIサービスを組み合わせさえすればすぐに人手を代替できると考えがちです。林耿呈氏は、実はそうではなく、AIの価値は、大量の高品質なデータを蓄積した後に変換・分析してAIの学習・検証モデルを構築して初めて、人手に起因する問題を完全に解決できるところにあると指摘します。
現在、ゴルフボールの検査のほか、慧穩科技は繊維業の布地や靴ひもなどの製品への導入を進めており、半導体業、PCB業、その他の伝統産業など、多くの業界が慧穩を通じてPOCを実施しています。
▲AOIによる布地の欠陥検査。上図はAOI検査導入前、下図はAOI検査導入後
林耿呈氏は、起業の過程で最も難しいのは人材の育成と顧客の認識だと指摘します。顧客は通常、早く成果を見ることを求めますが、AIの導入にはデータの蓄積と反復検証が必要であり、こうしたプロセスは半年以上かけなければ成果が現れないことは、あまり知られていません。
新型コロナウイルス感染症の衝撃を受け、製造業サプライチェーンのグローバル化・集中化の流れはすでに崩れ、代わって台頭しているのが「短距離・地域型」のサプライチェーンです。つまり、小さくても優れた工場が各地に次々と生まれることになりますが、これはAOIにも新たなビジネスチャンスをもたらすのでしょうか。林耿呈氏は、高度な自動化は確かにAI自動検査にビジネスチャンスをもたらすものの、その分、資本投入も大きくなり、自動化設備、ホストマシン、GPU、十分なAI運用保守人材などは、いずれも中小企業や小規模工場が負担できるものではなく、政府の資金と資源の投入に頼って初めて円滑に転換できると述べています。
